リンパ浮腫の治療のポイント
*弾性スリーブ・ストッキング(弾性着衣)着用の際、腕や脚の付け根などで食い込まないことが大変重要です。「弾性スリーブ・ストッキングが合わない」のではなく「着用の仕方がうまくいっていない」ケースが大変多くみられます。「合わないから新しい弾性スリーブ・ストッキングを買う」のでなく、手持ちの弾性スリーブ・ストッキングをうまく利用することを試みましょう。
*炎症(蜂窩織炎)やほかの疾患の場合も、リンパドレナージなどのリンパ浮腫の治療を一生懸命行っても良くなりません。その意味で、リンパ浮腫の治療のもっとも重要なのは「正しい診断」です。正しい診断の下で、「必要最小限の治療」をされることをお勧め致します。
*二次性(術後)リンパ浮腫は腕や脚の付け根から始まります。特に、下肢の場合は陰部にむくみがでることがありますが、初期に対応することが大切です。また、初期に対応すればそれほど心配はありません。
*むくみはその時その時移動しています。圧(重力と弾性着衣)のかけ方ですぐに変わります。はじめは鼠径部にあったむくみも徐々に下の方に落ちていき、いわゆる”脚のむくみ”になります。その意味で、脚全体のむくみとして考えて対応しましょう。逆に”この部位のむくみは取りたい”ということもあります。
| 日本におけるリンパ浮腫診療の現状について
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● 日本におけるリンパ浮腫診療の指針は制度的な問題に関しては@厚労省委託事業リンパ浮腫研修委員会、および臨床における治療の標準化に関してはAがんセンターのクリニカルパス、の2つが比較的公的に近い組織です。この2者には各医療機関からの代表が集まっており、多くの方々のコンセンサスにより成り立っております。そのほかにはリンパ学会など各学会関連の活動はありますが、それ以外はいずれも私的な組織、名称であり、公的なものではありません。
「独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センター」 *私のこのHPも公的なものではありません。
特に2012年現在、リンパドレナージに関する公的資格はなく、いわゆる養成校で習得しても、その養成機関における修了証であり、「資格」ではありません。あくまで、現在所有している医療資格の範囲内での治療行為のみが可能です。
なお、リンパ浮腫もしくはリンパドレナージに関する資格についてはリンパ浮腫研修委員会で現在検討中です。
●治療に関しては、がんセンターのクリニカルパスが基本と考えて下さい。
ネットや各種書籍を見るとつい積極的な治療を考えがちですが、リンパ浮腫の治療、特に予防や初期治療は日常生活における注意がもっとも重要であり、見て分かるほどにむくんだ場合には弾性ストッキング・スリーブが重要となります。
すくなくとも、術後まだむくみが出ていない段階やほんのわずかむくんだ段階で、リンパドレナージ(マッサージ)をしないといけない、とか弾性包帯を巻かなければいけない、などということは多くの場合まずありません。特に術後間もない時にリンパドレナージに頻回に通ったり、弾性包帯(弾性スリーブ・ストッキング)をしないとむくむ、という強迫観念はけして持たないようご注意下さい。初期に日常生活上の注意を行えば、それ以上の進行は十分に抑えられます。
●複合的理学療法という言葉がよく出てきますが、これはあきらかにむくんだ場合の治療法と考えた方が良いかと思います。これは@リンパドレナージA圧迫B圧迫下の運動Cスキンケアとして知られています。しかしながらここには、もっとも基本となる患肢の挙上や日常生活の注意が含まれていません(国際リンパ学会の原典では記載はされており、治療に含まれていないわけではありません)。そのため、「リンパ浮腫の治療=複合的理学療法」の図式が広がり、日常生活の注意がおろそかになりがちになる風潮が出てきたため、リンパ浮腫研修委員会では下記の合意事項にあるように、日常生活の注意を含めた治療を「複合的理学療法を中心とする保存的治療(複合的治療)」とよぶこととし、そのような風潮に注意を促しました。
したがって、複合的理学療法と複合的治療とは別の考え方を指していますが、一部で複合的理学療法を複合的治療と混同して使用されており、大手出版社からの書物にもみられていますので、十分にご注意下さい。
複合的理学療法: @リンパドレナージ A圧迫 B圧迫下の運動 Cスキンケア
複合的治療 : 複合的理学療法 + 挙上などの日常生活上の注意
なお、「複合的理学療法」は英語の complex physical therapy の訳ですが、「複合的治療」は元々は日本の官報の記載
から来ているため、適切な英訳はありません。
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| 平成21年度厚生労働省委託事業リンパ浮腫研修委員会における合意事項 |
リンパ浮腫治療においては各施設でいろいろな方式がとられていることと思いますが、予防・治療における重要な事柄および用語の統一について各委員の間で下記のような合意が得られました。 2010.1
1)リンパ浮腫の予防におけるリンパドレナージ、弾性ストッキング・スリーブの扱い:
現在のところ「リンパドレナージと弾性ストッキング・スリーブなどの圧迫療法が予防に有用」というエビデンスはない。
乳がんや子宮がんなど婦人科がんの手術後にリンパ浮腫の予防に必要だからという理由で、リンパドレナージや弾性ストッキング・スリーブをすべての患者さんに指導し、施行を義務付けている施設がある。しかし、強制されている患者さんには大きな苦痛となるためこれはおこなうべきではない。
2)リンパ浮腫治療における日常生活指導の重要性:
従来、リンパ浮腫治療においては「複合的理学療法」が有用とされてきたが、これのみでは不十分であり、長時間の立ち仕事を避ける、時に患肢を挙上するなどの日常生活指導を加えることが重要である。したがって、「複合的理学療法」に日常生活指導を加えた「複合的治療」(または「複合的理学療法を中心とする保存的療法」)がリンパ浮腫に対する標準的治療である。
3)リンパ浮腫治療におけるシンプルリンパドレナージの扱い:
通院治療が主体であり、用手的リンパドレナージを実施できる医療施設が少ない日本では、患者さんが自ら実施するシンプルリンパドレナージ(=セルフリンパドレナージ)や家族・介助者が実施するシンプルリンパドレナージが一般的に行われているのが現状である。しかし、その効果についてはエビデンスが不十分であり、意義、どのような患者・病態に必要か、などの適応や具体的内容、禁忌などを今後確立していく必要がある。
4)リンパ浮腫治療における薬物療法:
現時点ではリンパ浮腫単独に対する効果的な薬剤はない。進行再発期と緩和医療期では全身浮腫に対して、その病態に応じて種々の薬剤を使用する。
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| リンパ浮腫治療における弾性スリーブ・ストッキングの保険導入(療養費払い)。
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● 特定がん手術前後にリンパ浮腫に対する適切な指導を個別に実施した場合の管理料を新設する。
→リンパ浮腫指導管理料 100点(入院中1回)
● 四肢リンパ浮腫に対する弾性着衣(ストッキング等)が療養費対象となる。
(いずれも2008年4月1日より適用)
以下が加わりました。 (中医協 総―6―1 H22.2.5)
当該保険医療機関入院中にリンパ浮腫指導管理料を算定した患者であって、当該保険医療機関を退院したものに対して、当該保険医療機関において、退院した日の属する月又はその翌月にリンパ浮腫の重症化等を抑制するための指導を再度実施した場合に、1回に限り算定する。 |
*当院は医療機関ですので今回の保険導入(療養費払い)に対応しております。(当院の対応は こちらへ)
*弾性着衣類は保険適用となりましたが、リンパドレナージを含む治療全般には保険適用はありません。
リンパ浮腫予防の指導は1回のみ保険適応になりましたが、治療のためのリンパドレナージ施行は保険医療機関では基本的には認められておりません。
| *現在、日本には公的な医療リンパドレナージの資格は存在致しません。 |
民間の施設が「資格」としている場合がありますが、公的な資格ではありません。
リンパ浮腫の方にリンパドレナージを施行できるのは、「リンパドレナージを行える者(リンパセラピスト)」
ではなく、「医療に携わることができる者」が、その資格の範囲内で施行できます。
なお、リンパドレナージはいわゆる「マッサージ」とは異なる手技です。
たとえば、医師はリンパドレナージを知らなくても法的にはリンパドレナージを行っても良いことになります。逆に、どんなにリンパドレナージュがうまくても、医療関係者(医師、看護師、理学療法士など)か、もしくは医師の指示の下に行う際の(国家資格を有する)あんまマッサージ指圧師等でなければリンパ浮腫に対するリンパドレナージ施行は違法となります。なお、今回の保険適用では、リンパ浮腫予防の指導は「医師又は医師の指示に基づき看護師(准看護師を除く)、理学療法士」が行う、とされています。 |
*保険医療機関及び保険医療養担当規則 (昭和三十二年四月三十日厚生省令第十五号)
(施術の同意) 最終改正:平成二一年一二月二八日厚生労働省令第一六八号
第十七条 保険医は、患者の疾病又は負傷が自己の専門外にわたるものであるという理由によつて、みだりに、施術業者の施術を受けさせることに同意を与えてはならない。
(特殊療法等の禁止)
第十八条 保険医は、特殊な療法又は新しい療法等については、厚生労働大臣の定めるもののほか行つてはならない。

むくみ(浮腫)とは、血液中の体液が血管外に濾出するなどして、皮下組織に水分が過剰にたまった状態を言います。
大きく、全身性のむくみと局所性のむくみに分けます。全身性浮腫には心臓性、腎性、肝臓性など、局所性浮腫には静脈性やリンパ性などがあります。
全身性では原疾患の治療が必要ですが、女性特有の特発性浮腫などは一般的な内科的治療の対象とはなりません。局所性浮腫は見た目は元気ですが、むくんでいる脚や腕に一般的な考え方では対応しにくい症状が認められます。
このHPでは、一般内科的には取り上げられない浮腫や局所性浮腫、とくにリンパ浮腫を中心に取り上げます。
リンパ浮腫は乳癌や子宮癌の術後などに見られる事の多い、主に一側だけの腕や足のむくみです。2008年4月の弾性スリーブ・ストッキングの保険適用以来かなり知られてきましたが、一次性リンパ浮腫における保険適用がないこと、弾性着衣以外の治療に関しても保険適用がないこと、さらには、その治療を行う資格とその教育システム自体が確立していないことなど、まだ十分な環境が整ったとはいえません。このHPは、リンパ浮腫を広く知って頂くと同時に、現状をさらに改善したいとの思いから開設しています。術後リンパ浮腫を発生しやすい、乳癌・子宮癌などの手術に携わる外科系、婦人科系の医師の方々にもご一読頂ければ幸いです。
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