弾力ストッキングの選び方

愛知県立看護大学外科教授 平井 正文

 医療用に作られた弾力ストッキングは、静脈瘤、静脈血栓後遺症などの静脈還流障害にはなくてはならない医療品であり、リンパ浮腫の治療にも用いられます。また静脈血栓症や静脈瘤の予防に有用です。上肢用には弾力スリーブがあります。  弾力ストッキングは予防や治療ばかりでなく、下肢の症状がうっ帯によるものか否かの診断にも用いられます。下肢に静脈瘤が存在しても、症状が必ずしも静脈瘤を原因としているとは限りません。しかし弾力ストッキングをはかせ、症状の軽快が得られれば、その症状は静脈うっ帯に基づく可能性が大となります。

≪圧迫力の選択≫

 弾力ストッキングは、足関節より中枢にいく程、段階的に圧が低くなるように作られています(graduated type)。静脈還流を促進させるためです。種々の圧迫力のストッキングがありますが、各種ストッキングの圧迫の強さは足関節部分への圧迫力で表示されています。
Jonesらは、各種圧迫力のストッキングの血行動態的な改善を観察していますが、20mmHgの圧迫力のストッキングでは改善はみられず、30~40mmHgの圧迫力のストッキングで静脈瘤、静脈血栓後遺症症例ともに改善を観察しています。また、Partschは、浮腫、皮膚硬化、色素沈着、潰瘍という高度慢性静脈不全症状をもつ症例では、40mmHg以上の強い圧迫力をもつストッキングにのみ効果を認めています。上記の所見は、治療効果をあげるためには一定以上の圧迫力が必要であり、また病態に応じて適切な圧迫力のストッキングを選択することが大切であることを意味しています。
私どもは、ストッキングの血行動態的改善度、患者へのアンケート調査結果、文献的考察より圧迫力の選択を次のように考えています。

●静脈瘤における圧迫力の選択

 静脈瘤症例では、30~40mmHgの圧迫力を第一選択にします。しかし、高齢者、関節障害などで、圧迫力の強いストッキングをはくことが困難な症例には20~30mmHgを選択させます。このとき後に述べる重ね着(double stocking)の効果を用いる方法もあります。
 静脈瘤症例でも、浮腫の強い症例、皮膚の硬化、色素沈着、潰瘍症例では40~50mmHgの弾力ストッキングを用います。

●静脈血栓後遺症における圧迫力の選択

 静脈血栓後遺症症例にも第一選択を30~40mmHgの圧迫力とします。しかし、静脈血栓後遺症では、静脈瘤に比較して、一般に浮腫が高度な症例が多く、また、皮膚の硬化、色素沈着、潰瘍を形成しやすいことから、40~50mmHgのストッキングを選択することが多くなります。

●その他の症例への圧迫力の選択

角病態と圧迫力(足関節部)の選択
圧迫力
mmHg
病態
20未満 血栓症予防
静脈瘤予防
ストリッピング手術後
他疾患による浮腫
20~30 軽度静脈瘤
高齢者静脈瘤
小静脈瘤への硬化療法後
30~40 静脈瘤
静脈血栓後遺症
硬化療法後
40~50 高度浮腫
皮膚栄養障害のある静脈瘤
静脈血栓後遺症
リンパ浮腫
50以上 高度リンパ浮腫
 リンパ浮腫では40~50mmHgの強い圧迫力の弾力ストッキングが用いられます。高度リンパ浮腫では、さらに強い50mmHg以上の圧迫力が選択されます。
 硬化療法では、一般に30mmHg以上の圧迫力をもつ弾力ストッキングが使用されています。しかし小静脈瘤への硬化療法では20~30mmHgの圧迫力でもよいと考えています。
 妊娠中の静脈瘤の予防、深部静脈血栓症の予防には20mmHg以下の圧迫力が用いられます。
 深部静脈血栓症の急性期には弾力ストッキングの使用は慎重でなくてはなりません。十分に側副血行が発達していないときには、弾力ストッキングでかえって静脈還流機能は悪化してしまいます。弾力包帯なら、症状が増悪しない程度に巻き方を調節して圧迫力をかげんすることが可能ですので、急性期には弾力包帯がよく使用されます。深部静脈血栓症に弾力ストッキングを使用するときには、最初は軽い圧迫力のストッキングから使用し、下肢のチノアーゼ、しびれ、疼痛といった症状の増悪がないことを確認しつつ強い圧迫力へと移行させます。

●重ね着の効果 (double stocking)

 重ね着の効果とは、圧迫力の弱いストッキングでも、2枚重ねてはくことにより、1ランク上の圧迫力が得られることです。たとえば、20~30mmHgのストッキングを2枚はくと30~40mmHgのストッキングと同じ圧迫力が得られます。
 強い圧迫力のストッキングをはくことは、高齢者や関節障害のある患者さんには容易ではありません。硬化療法後など一定の圧迫力を必要とするときにはdouble stockingも一つの選択肢となります。

≪タイプの選択≫

弾力ストッキングには主として3つのタイプがあります。ハイソックスタイプ(膝下までの長さ)、ストッキングタイプ(太腿までの長さ)、そしてパンティストッキングタイプです。他にはマタニティタイプなどもあります。静脈瘤においても静脈血栓後遺症においても、たとえ太腿部に静脈瘤や浮腫が存在する症例でもハイソックスタイプを第一選択にします。その理由は、下肢の静脈還流には下腿節のポンプ作用が最も重要だからです。
 このことは、ストッキングやパンティストッキングタイプを使用してはいけないという意味ではありません。静脈還流機能の改善から見ると、ハイソックスタイプで十分であるということで、患者さんの好みでストッキングタイプやパンティストッキングタイプも使用されます。
 ハイソックスタイプには、安価である、暑くない、ズレ落ちにくい、などの長所があります。
 しかし、太腿の浮腫が高度な静脈血栓後遺症やリンパ浮腫の症例では、浮腫の軽減という意味でストッキングタイプ、パンストタイプも選択されます。
 硬化療法では、太腿部の静脈瘤にも圧迫が必要になりますので、ストッキングタイプ、パンストタイプが使用されることが圧倒的に多くなります。
 弾力ストッキングには、つま先のでているopen toeタイプと、被覆されているclosed toeタイプとがあります。
open toeタイプは、とくに夏期、足がむれにくいため好まれます。また足の指の変色を観察できます。しかし指の付け根が押さえられて痛むという訴えもあります。

≪サイズの選択≫

各種圧迫力、タイプには、そえぞれS、M、Lの3種類のサイズがあります。足の太さにより選択されます。基本になるのは、腓腹部(ふくらはぎのもっとも太いところ)と足関節部の太さです。メジャーで計測し、各製品の説明書の指示に従って選択します。腓腹部と足関節部との太さが、指示と異なるときには足関節部の太さを優先させます。

弾力ストッキング着用の注意事項

◎ 弾力ストッキングをはいても、正常の静脈還流にはなりません。長時間の立位を避けるなどの生活指導は常に必要です。
◎ 各製品により圧迫力、サイズの指示が異なります。それぞれの製品の説明書の指示を理解する必要があります。
◎ 弾力ストッキングの寿命は約半年です。圧迫力の弱くなったストッキングをはいても充分な効果が得られません。
◎ 医療用の弾力ストッキングは圧迫力が強く簡単にははけません。病態と必要性を患者さんによく説明し、きちんとはく習慣をつけてもらうことが大切です。「はきにくい」という訴えに妥協はいけないと考えています。
勿論、高齢者、四肢の痛み、関節障害のある患者さんには弱めの圧迫力を選択することになりますが、重ね着の効果(double stocking)も有用です。
◎ 原則として、起床時より就寝時まではかせます。硬化療法中など特殊な場合を除き、就寝中ははずさせます。横になると静脈圧が下がりストッキングにより一層強く圧迫され、痛みやしびれ、チアノーゼが生じることがあります。
◎ 弾力ストッキングの禁忌
皮膚に化膿創があったり、高度の動脈血行障害のある人には使用しません。弾力ストッキングで接触性皮膚炎をおこす人がおります。異なる製品がすすめられます。

【文献】

・ Jones NAG et al: A physiological study of elastic compression stockings in venous disorders of the leg. Br J Surg.67:569,1980
・ Partsch H: Do we need firm compression stockings exerting high pressure? Vasa,13:52,1984
・ 平井 正文: 目でみる血管疾患 ―外来診療のために―
医歯薬出版、東京、1996
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